持続可能な有機農法について

有機農業を可能にする土づくり

有機農業を可能にする土づくり
有機農業を可能にする土づくり

 有機農産物の生産は農薬や化学肥料が使えないのに加えて、都市近郊の農地では近隣住民に配慮した栽培技術が求められます。そこで、まずこだわったのは「土づくり」です。

 炭、もみ殻堆肥、魚粉、サンゴを活用して、土壌の中の微生物を活性化させる土づくりを続け、その結果、連作障害を克服して安心・安全を心がけた良質な野菜づくりが可能となりました。

池上式新スチーム農法
について

 有機農法では土づくりに加えて、もう一つの大きな問題として雑草対策があります。

 当農園では雑草が生育しても放置し、施設栽培で一般的に実施されてる蒸気土壌消毒法という技術を応用して雑草をスチーム処理した後、圃場にすき込みます。これにより、雑草が有機質資材として圃場に供給されることになります。つまり、系外から有機質資材を持ち込む必要がなくなり、持続可能な有機物供給が可能となります。

 この農法は当農園で独自に開発したものですが、国立大学法人東京農工大学の専門家の科学的な検証を経て、SDGs(持続可能な開発目標)に適合した「池上式新スチーム農法」として2017年にオーソライズすることができました。専門的になりますが、以下にその概要を説明します。

① 池上式新スチーム農法の原理

池上式新スチーム農法の原理 蒸気土壌消毒法は、毒性がなく、人畜・近隣作物への害もない、優れた防除技術ですが、消毒後の土壌中では病原菌だけでなく有用微生物も減ってしまい、微生物的な緩衝作用が低下します。このため土壌病原菌の再汚染があった場合、かえって病気が激しくなることがあります。特に、施設野菜など連作を前提する作付体系ではその傾向が高まります。

 そこで、その対応策の一つとして、苗立枯病菌など土壌表層(深さ3cm程度)に生息する病原菌の数を減らすことにねらいを絞り、蒸気の放出時間を数分間のみとしました。これにより表層を除く土壌の微生物相には悪影響を与えないようにできると考え、この方法を特別に「池上式新スチーム農法」と称することにしました。なお、本農法では蒸気土壌消毒機をスチーム機と呼び習わしています。

 当農園では雑草が生育してもそのまま放置し、適当な時期に雑草をこの方法でスチーム処理した後、圃場にすき込みます。これにより土壌中での雑草の分解・発酵が促進され効率的な有機物投入にもなります。さらに良質な有機質資材(堆肥など)も適宜供給し、その結果、土壌中の有用微生物を活性化し、連作しても土壌病害の発生しない発病抑止型土壌が出来上がると考えられます。

② 池上式新スチーム農法の実際

導入の前提

  1. 信頼できるメーカーの蒸気土壌消毒機を購入してください。当農園では以下のメーカーの機器を使っています。
    株式会社丸文製作所
    〒433-8121 静岡県浜松市中区萩丘5丁目8番23号
    TEL:053-471-9197(代)
    URL:https://www.marubun-s.co.jp
  2. 土壌病害の発生程度が激しい場合は、蒸気土壌消毒法などの一般的な土壌消毒を実施し、発生程度を低下させてから本農法に転換してください。

池上式新スチーム農法の作業手順

※ 画像をクリックすると拡大してご覧いただけます。

  • 1. スチーム機を始動させて蒸気放出の準備をします。

  • 2. 蒸気放出用ライトホースを畝中央に設置します。

  • 3. 畝をシートで覆い、畝間に重し(くさり)を置きます。

  • 4. ライトホースにノズルを設置します。

  • 5. ノズルにスチームホースをつなぎます。

  • 6. スチームホースのバルブを開けて蒸気を放出します。

  • 7. シートを上下にあおって蒸気を畝の先へ送ります。

  • 8. 畝全体に蒸気が充満してから深さ3cmの土壌温度が60℃になるまで蒸気放出を続けます。

  • 9. 別の畝も同様に順次蒸気処理します。

導入による効果

  1. 各作ごとに本方法を実施することにより、数作後には発病抑止型土壌が出来上がります。
  2. 波及効果として、害虫や雑草の抑制・防除も達成できて、殺菌剤、殺虫剤、除草剤の使用量を減らす、あるいは有機JAS認証にも対応できる野菜作りが可能となります。
  3. ビタミンCなどの栄養価や抗酸化能が高く、食味も良好な野菜が収穫できます。

参考:蒸気土壌消毒法とは

 蒸気が保有する潜熱(539kcal/kg)を土壌中に放出させて土壌温度を上昇させ、病害虫の駆除を行う技術が蒸気式の土壌消毒法です。土壌中に放出された蒸気の潜熱は、その放出点を中心にして波状形に高温域(熱前線とよびます)を形成し、蒸気の連続供給によって熱前線は土壌表面から下方に拡がります。土壌中の病原菌、害虫、雑草の種子のほとんどは60℃~80℃で10分間のうちに死滅します。

熱伝播の模式図
熱伝播の模式図
蒸気土壌消毒の模式図
蒸気土壌消毒の模式図